東京 GILT 会で「コミュニティとベンダーによるハイブリッド翻訳の取り組み」について話しました

土曜日に開催した【東京GILT会】ソフトウェアと翻訳 #1 勉強会で、WordPress.com を始めとする Automattic プロダクトの翻訳プロセスについて発表をしました。

コミュニティとベンダーによる
ハイブリッド翻訳の取り組み from Naoko Takano

コミュニティ(ボランティアユーザー)とベンダー(ローカリゼーションサービスプロバイダー)による翻訳にはそれぞれ長所と短所、向いているものとそうでないものがあります。さらにスライド内ではオンデマンド翻訳についても触れていますし、インハウスで社内の担当者が翻訳をするという状況もあります。

単純にどれが良い悪いということではなくて、プロジェクトの性質や規模に合わせて適材適所の選択をすべきなのですが、そのための情報というのが私が取り組みを始めた当時は(Web サイトやアプリに特化した話としては)あまりなくて、紆余曲折してきました。

スライドより抜粋。WordPress.com 翻訳プロセスのタイムライン。

結果的に私達は今、コミュニティとベンダーによる翻訳を両方採用し、それぞれの品質とプロセスの改善に取り組むというフェーズに入っています。

今回の内容は概要的な紹介なので、スライドだけ見て伝えられることは限られていますが、サイトやアプリの国際化(多言語化)に初めて取り組んでみようという方や、現在やっているけど他の方法も知りたいという方に参考になればと思います。

西野竜太郎さん「ソフトウェア・グローバリゼーションの概要」

西野竜太郎さん

順序が前後しますが、勉強会では西野さんの「ソフトウェア・グローバリゼーションの概要」という発表もありました(資料はこちら)。

個人的に印象的だったのは「翻訳を意識した GUI」の話でした。画面内のテキストを翻訳と置き換えると表示がはみ出したりずれてしまったりすることはよくありますが、それに対する根本的な解決策ってあるんだろうかと疑問に思っていました。

「あちらを立てればこちらが立たず、というようにケースバイケースで適切なものは違うので、その時々で調整が必要」ということを聞いて、絶対崩れないルールを作ろうと目指すよりは、テストやQAの充実にもっと力を入れたほうが現実的なんだということが知れてよかったです。

このプレゼンのベースになっている「ソフトウェアグローバリゼーション入門 国際化I18Nと地域化L10Nによる多言語対応」という彼の書籍は、この分野の基本的かつ最新の情報が網羅された貴重な一冊ですので、こちらもおすすめです!

今後の予定

次回の勉強会の日程はまだ決まっていませんが、LT大会なんかも良さそうだと思っています。

ソフトウェアの国際化やローカリゼーションに興味がある方はぜひ、connpass の「東京 GILT 会」グループをフォローして今後のイベント告知を受け取ったり、Facebook グループに参加して質問・投稿してみてください。

私もこの分野にはしばらく関わってきてはいるもののまだ学びたいことだらけなので、オンライン・オフライン含めて引き続き情報交換できればうれしいです。

【東京GILT会】ソフトウェアやサイトの国際化などに関するコミュニティイベントを開催します

アプリケーションをつくる英語」や「ソフトウェアグローバリゼーション入門」といった書籍の著者である西野竜太郎さんと一緒に、ウェブサイトやアプリの国際化、ローカリゼーション、多言語対応、翻訳などに関わる人達が知識を共有するための新しいコミュニティ「東京GILT会」を始めることになりました!

第一回のイベントは2018年1月27日(土)の夕方、新橋での開催になります。まずは西野さんと私がそれぞれ登壇しますが、これをきっかけとして同じ興味を持つ人たちとつながっていきたいというのが会の趣旨になります。

【東京GILT会】ソフトウェアと翻訳 #1 – connpass

イベント概要より引用。

「東京GILT会」のGILTとは、Globalization, Internationalization, Localization, Translationの頭文字を取った用語になります。

きっかけは西野さんのツイート。私も WordPress の翻訳についてはコミュニティでのつながりはあるけどもっと一般的な GILT 界隈のことも吸収したいし、勉強して専門性を高めていければと思っているところだったので、一緒にやってみようということになりました。

同じくサイトやアプリの国際化や翻訳などに興味を持っている方のご参加、お待ちしています!

今回のイベントには出席できないという方は、connpass 上の東京 GILT 会グループに参加してもらえれば今後のイベント情報が届きますので、ぜひどうぞ。

 

JTF 翻訳祭2015

今日は市ヶ谷で開かれた JTF 翻訳祭というカンファレンスに行ってきました。先日ブログにも書いた多言語ナイトの時に翻訳サービス企業の方から教えてもらって初めて知ったのですが、今回で25周年だそうです。こういった翻訳業界のイベントに参加したことはなかったので、新しい視点を得る機会になりました。

翻訳祭 企業ブース

セッション

プログラム一覧はこちら

翻訳者の皆さんに知っていただきたい、多言語ソフトウェア開発側の苦労

海外向けソフトウェアの開発支援を行っている、NEC 森 素樹氏の講演。NEC の開発するアプリケーションとなると Web アプリケーションとは規模や開発プロセスが違う部分もありますが、発生する問題やベストプラクティスなどは共通の部分のほうが多く参考になりました。

翻訳祭「多言語ソフトウェア開発側の苦労」セッション

ソフトのローカリゼーションには「違和感を感じない品質」が求められる。きちんとできたからといって褒めてもらえるわけではないが、できていないと反発や企業イメージの低下を招いてしまう。というのには納得。元の言語以外でも違和感なくソフトを使えて、多言語で存在することが当たり前になるような翻訳を提供できれば理想的です。

そのためには開発の最初から国際化を視野に入れることはもちろん、継続的な取り組みが不可欠、と言っておられました。これも当然ではありますが、心に留めておきたいことです。

講演中に紹介された役に立つリンク。

次なる未来『トピック指向時代』の翻訳に挑む!

副題は「DITA・CMSの導入事例から明らかとなったトピック文書翻訳のベストプラクティス」で、DITA という XML 規格を使ったマニュアル文書などの作成についてのお話。

トピック指向文書翻訳・DITA 導入セッション

個人的には CMS との連携あたりの話に非常に興味があったのですが、主に DITA 導入においての失敗例や改善のためのプロセスがメインでした。関係ないんですが、登壇されたヒューマン・サイエンス社のドメイン名が science.co.jp ってすごいなと気になりましたw

DITA 自体の話に加え、翻訳しやすい日本語の書き方とデータの準備方法、翻訳プロジェクトを成功させるためのプロセス(ゴールの設定、プロトタイプづくり、運用ルール制定)などもあって興味深かったです。

(予備知識として DITA について調べていたら、WordPress 共同創始者のひとり Mike Little が2009年に作った “DITA to WordPress Import Tool” というものがあることを知りました。昨年の時点での更新版を公開している方もいます)

MT Live ~機械翻訳の担うべき役割~

こちらのパネルセッションは2部制の後半を聞いたのですが、3社の機械翻訳(MT)技術を使った結果を比較して、専門の翻訳者がそれをレビューするという内容でした。実際の結果出力もすべて配布されていました。

翻訳祭 2015 機械翻訳パネル

特許・IT 分野の定型的なマニュアル翻訳に関しては各社の特長や優越は特には感じられず、下訳には十分使えるレベルとの判定。人間が訳すると自然な文になるのは当然ですが、MT にはスピードや統一性という大きなメリットもあります。機械翻訳をいかにうまく使うかが、これからはプロにも差をつける鍵になりますよ!とまとめておられました。

一方、一般向けのテキストは(少なくとも今回の例文については)一番厳しい結果となっていました。慣用句・多義語・言葉遊びを多用した自然な原文であればあるほど文脈をつかむのが難しくなってしまうし、時事ネタはまだ登録されていないのでカバーできないというのが現状のようです。私も例文を Google Translate にかけてみましたが、やっぱり変な訳になってしまっていました?

そういえば学生時代に英語を勉強する目的でニュース雑誌や新聞を読んだりしていましたが、今思うとああいう文章は実は外国人には難しいですね。勉強向けには、文章や用語に規則性がある各種マニュアルを読むといいかもしれません!?

まとめ

私が主に知っている翻訳の世界である Web アプリの UI、コンテンツ翻訳などは翻訳産業全体から見るとまだまだ新しめの分野なんだなという実感はしましたが、どのセッションでもその新しいニーズや変化についての言及がけっこうあったのが印象的でした。WordPress のようなオープンソース CMS やその関連技術がこれからの翻訳を大きく変えていく可能性もありそうだし、会社での仕事とコミュニティを通してローカリゼーションをもっと楽に高品質にしていくためのことが何かできればいいなと思ったりしました。

そして技術の発達に伴って「ローカルユーザーに対して意図されたメッセージを伝える能力」そして「翻訳プロセスを最適化していくための工夫」が人間に対してますます必要とされていくんだろうと感じました。

わかりやすい文章や心に響く表現を磨き、翻訳を改善するためのアイディアを多方面から試してみることはまだまだコンピューターには苦手な分野です。そういう意味でも今回、普段とは違う角度から翻訳やローカリゼーションについて考えるきっかけを作れてよかったと思います。