State of the Word 2015: マット・マレンウェッグスピーチまとめ

さて引き続き WCUS のレポートを書いているわけですが。やっと、マット・マレンウェッグの「State of the Word」のお話です。

サンフランシスコで最初に WordCamp が開かれた2006年から数えて10回目となるマットの基調講演。ここでは1時間半の内容をかいつまんでご紹介しますので、すべての内容を詳しく知りたい方は、動画または公式ライブブログをどうぞ。

とはいえ現在のところ英語のみですので、日本語で読んでみて気になるところのみ英語版で詳しく見てみたりするといいかもしれません。

オープニング

基調講演は2日あった WordCamp US の最後に行われ、ランチルームとしても使われた広〜い部屋に多くの人が集まりました。

まず、フィラデルフィア市長 David Oh 氏がマットともに登壇。「12月5日を『WordPress の日』とします!」と告知

このあと、昨年亡くなった2人のコミュニティメンバー、Alex King と Kim Parsell のために一分間の黙祷の時間が取られました。

続いて、WordPress の歴史を綴った「Milestones: The Story of WordPress」という電子書籍が完成したというお知らせ。現在英語版のみですが、こちらから ePub/.mobi/PDF の形式で無料ダウンロードできます。

コミュニティ

2015年には、34カ国で89回 WordCamp が行われ、合計21,000人が参加しました。601人が運営に関わり、そのうち6割は初めての WordCamp 運営。スピーカー総数1,600人、セッション数は2,100回。Meetup.com 上での勉強会は2,000回行われたそうです。

WordPress.org では、プラグインのダウンロード数の代わりに有効化されているサイトの数を数えるようにしたり、チャットツール Slack の利用開始、プラグイン・テーマディレクトリの多言語化、「ランゲージパック」システムの導入などが起こりました。

アップグレードとホスティング会社の取り組み

バージョン 4.1、4.2、4.3 のリリースととともに新機能やバグ修正が行われたのはもちろん、セキュリティも強化されていっています。誰もが新バージョンの恩恵を受けやすくするため、また、サイトを脅威から守るため、ホスティング会社は様々な取り組みを行っています。

例えば Bluehost では、8月時点で200万 WordPress サイト中160万サイトが最新バージョンではない状態でした。独自のバックアップ・自動アップグレードツールの開発により、4.3 のリリース時にコア・テーマ・プラグインの合計260万件のアップグレードを行ったそうです。この件についてサポートに連絡した人はたったの0.006%で、その後のクラッキング被害などが減り WordPress サポートリクエストは18%もダウンしたそうです。

WordPress 4.4

続いて 4.4 のリード開発者 Scott Taylor による新バージョンの機能紹介など。今回のリリースでは400人の貢献者がコア開発に参加したそうです。そして、来年のリリースリードが発表されました。

  • 4.5: Mike Schroder (DreamHost)
  • 4.6: Dominik Schilling (25歳、ドイツの大学生!)
  • 4.7: Matt Mullenweg (Automattic)

REST API

ここで、4.4 から段階的にコアに取り込まれ始めた REST API の事例紹介が行われました。

  • Microsoft Dynamics AX (エンタープライズ向け ERP/統合業務パッケージ。WebDevStudio が WordPress との連携機能を作成)
  • Nomadbase (HumanMade 社によるロケーション共有アプリ)
  • StoryCorps.me (NRP の、音声インタビューをアップロードできるアプリ)
  • Calypso (Automattic が開発した100% JavaScript の WordPress.com 新ダッシュボード・デスクトップアプリ)

それぞれの事例についての詳細は、Torque Magazine の記事でカバーされています。さらに同記事では Wired.com の Slack/WP REST API 連携ライブブログの事例も取り上げられています。

LetsEncrypt/PHP 7

WCUS の期間中にはちょうど WordPress と関係が深いニュースについてもタイムリーに発表があり、それらについても言及がありました。

12月3日にパブリックベータ期間が開始された Let’s Encrypt。SSL/TSL サーバー証明書の取得、有効化や管理を簡単にすることによって、HTTPS  の普及とより安全な Web の実現を目指しています。Automattic や SiteGround、Sucuri といった WCUS のスポンサーでもある企業も同プロジェクトのスポンサーとして名を連ねています。Automattic としては自由でオープンな Web を作る手助けをしたいという考えから、政府などによる大規模な監視の影響を受けないサイトを誰もが作れる未来のためにプロジェクトの応援をしているとのことです。

PHP 7 については、「WordPress がリリースされてから最も大きな PHP の変化」として紹介されました。Calypso や WP REST API のニュースで「WordPress は PHP から離れていくのか?」という声もあったりする中で、マットは “PHP is not going away.” というスライドとともにそれをきっぱり否定しました。

“Learn JavaScript, deeply.”

一方で、こんなスライドも。

「宿題」として、JavaScript を深く学ぶ、ということを提案。特定のフレームワークの使い方を知るというよりも、JavaScript という言語を基礎から応用まで身に付けることを奨励していました。

それから、翻訳に関しても言及がありました。人気のプラグインとテーマをすべての言語で利用できるようにしたい、という声明。言うは易し行うは難し、というのは何に関しても言えることですが、多言語化の分野に関してこのような目標をしっかり提示してくれたことは大変意味があることだと思います。

2016年の WordCamp US

講演の最後には WordCamp US 2016 の日程が発表されました。来年は12月2日〜4日に再びフィラデルフィアにて開催。チケットももう発売されています。今年から WordCamp US は同じ都市で二年間行われるシステムになり、このように早めに決定してくれると遠くから旅行する人は計画も立てやすくなりますね。

質疑応答

講演はここまでだったのですが、30分ほど質疑応答が行われました。なかなか濃い内容のものもあっておもしろかったのですが、なにぶん長くなるので一部を簡単にご紹介します。

WooCommerce の未来は?
EC サイトは WordPress の成長に重要な鍵となると思う。WooCommerce の UI も API ドリブンのものになっていくかも。
Calypso が wp-admin 画面を置き換えることになるのか?
現在その2つは別物で、それぞれ進化していくことができる。Calypso はプラグインによる管理画面の追加や変更などに対応していない。WordPress のインターフェースをサイト中心ではなくもっとユーザー中心にしていくよう考え直す必要はあると思う。
JavaScript が PHP のテンプレート階層を置き換えることはあるか?
現在のところはテーマは PHP の領域だが、今後面白いことが起こる可能性もあるかも。(いわゆるテーマ開発者というより)サイト管理者向けの選択肢も、より改善していく必要がある。
このところアクセシビリティ周りの改善が見られているが、今後どのようにリードを取っていけると思うか?
アクセシビリティの改善はただ対応チェックボックスにチェックを入れる、ということではない。多言語化、モバイル、タッチデバイスなど多岐にわたる領域でよく考えて意図した変更を加えていく必要がある。
どうしてそういう髪型(グレー)にしたの?
WordPress コミュニティはどんな見た目の人でも受け入れてくれる。WordPress を通して、見た目や違いを気にせず働ける会社や団体を作ることができるのがすばらしいところ。このような環境を作ってくれている皆さんに感謝したい。
高速な開発サイクルによるエコシステムやツールの変化で、開発者が疲弊する心配はないか。
今後より高速になることはあってもスローダウンすることはないだろう。開発者を手助けするツールを作ったり、プラグインがチームによって開発されるよう促したりといったことで解決していきたい。
WordPress リード開発者になるための近道は?
「既存のリードがうざいと思うほどにパッチを送り続ける」。活発に参加し、信頼を得ること。他の人がやりたがらないことを率先してやること。
WordPress はいつ Git ベースの開発に移行するのか。
現在もツールやプロセスの更新が進行中で、(特にプラグインに関して)Git もそこに含まれている。我々も Git が好きだが、まだ移行の前にやらなければならないことがあるので、引き続き注目しておいてほしい。
プラグインレポジトリが有料(プレミアム)プラグインに対応する予定は?
レポジトリのプラグインが、入手してみたものの無料では使えないとなるとユーザーエクスペリエンスが良いとは言えなくなる。WordPress は今後も(オープンな)コラボレーションを大事にしていきたいと思っている。

所感

つらつらとまとめてみた文章からは伝わりづらいかもしれませんが、ライブで聞いた今年はやっぱりいつものようにワクワクした気分にさせられて、もっと WordPress に関わっていきたいなとモチベーションが上がりました。

個人的には髪型についてのちょっと肩の力の抜けた質問をなんだかいい話に思える回答へあくまで自然に持っていったところに「あいかわらずのマット節だな〜」と関心してしまいましたw

今年は年末に近くなっていろいろと WordPress やその周りでのニュースもあったので、年の終わりにこういった大規模な WordCamp があって State of the Word でまとめを聞けるのも悪くないかもと感じました。来年以降に向けて、また WordPress とそのエコシステムが色々と進化を遂げていくのを見るのがますます楽しみです。


Comments

“State of the Word 2015: マット・マレンウェッグスピーチまとめ” への1件のコメント

  1. […] というわけで、去年の”Learn Javascript, Deeply”とかよりは地味な話が多かったです。 […]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください