約1週間前に Automattic から WordPress.com のビジネス向け新ホスティングプラン、「WordPress エンタープライズ(Enterprise)」が公開されました。この試用期間を使って firegoby のみやさんがブログに詳しく書いてくれていますが、新サービスに関してちらほらお問い合せや質問を受けたので私の方でもまとめておきます。
まずは、関係ないようでけっこうある、Automattic への質問から。
Q1. ところで Automattic って、どうやって儲かっているんですか?
オープンソースの無料ソフトに関わる会社のため「どうやって無料ソフトから利益を得ているの?」と聞かれることよくあります。あえてものすごく簡単に言うと、Automattic は WordPress 専門のホスティング会社、です。ソフトウェアや付随するコード自体を販売したり、WordPress の受託開発を行なっているわけではなく、ホスティングを事業の主な柱としています。
現在 Web サイト全体の17%を占める CMS と言われている WordPress ですが、その約半数が実は「ひとつのマルチサイトインストールの子サイト」として動いているのはご存じない方も多いと思います。そのマルチサイトインストールこそが、WordPress.com レンタルブログサービス。オープンソース版の WordPress.org ソフトウェアとほぼ同じコードベースに、一部カスタムプラグインなどを追加して運営しています。
WordPress.com に関しては、クリス・アンダーソンの書籍「フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略」で有名になったいわゆる「フリーミアム」モデルで運営されており、数多くの無料ユーザーにブログを提供するプラットフォームにもなっています。全ユーザーの1%のみが有料サービスに料金を払っているのですが、数千万アカウントという大きなユーザーベースがあるため成り立っています。無料ユーザーの一部のページには広告が表示されたりはしますが、広告だけに大きく頼っているわけではないのは特徴的かもしれません。
Automattic では無料で始められる個人ユーザー向けの WordPress.com レンタルブログに加え、VIP ホスティングという WordPress に特化したクラウドホスティングビジネスの分野でも徐々に規模を広げています。こちらは、月々$3,750(日本円で30万円程度)からの価格帯で5サイトを帯域幅無制限でホスティングするというプランです。メディア企業、大手ブログ、有名ブランドのコンテンツサイトなど、クライアントはほとんどトラフィックが非常に多く、頻繁に更新されるサイトとなっています。日本国内でも、ロケットニュース 24、Pouch [ポーチ] という、平均的アクセス・トラフィックスパイクともに高いサイトで使っていただいています。
さらに Polldaddy、Akismet、VaultPress といった「プレミアムサービス」有料版も含め、合計すると2012年の予想収益は4500万ドル(約38億円)となっています。
Q2. 「エンタープライズ」アップグレードと VIP ホスティングの違いは?
エンタープライズは、個別のサイトで月間$500(約42,000円)で有効化できます。既存の、最大5サイトまで月間$3,750(約32万円)〜という価格帯であり年間契約が必要な「VIP ホスティング」サービスとの一番大きな違いは、「エンタープライズ」ではテーマ内のカスタム PHP と、独自プラグインが使えない、という点です。
VIP ホスティングはそもそも、Automattic の開発者によるテーマやプラグインのコードレビューが必要なため、どうしても自動化できない部分が多く、価格や契約形態にそれが反映されています。「エンタープライズ」では CSS/JavaScript のみのカスタマイズに収めることでその手間を省き、より多くの人が簡単にサービスを開始・停止出来る仕組みになっています。既存のテーマでは対応できないカスタムテンプレートがどうしても必要な場合は VIP ホスティングというチョイスのみにはなりますが、管理画面から変更可能なオプションが数多く含まれるプレミアムテーマも増えてきているため、工夫次第では「エンタープライズ」が使えるサイトは多いはずです。
機能 | WordPress.com | エンタープライズ | VIP ホスティング |
---|---|---|---|
価格(月々) | 無料〜 | $500 | $750/1サイト(5サイトから) |
テーマカスタマイズ | プレミアムテーマ、CSS/Typekit カスタマイズの有料アップグレード | プレミアムテーマ無制限、CSS/Typekit/JavaScript | カスタムテーマ利用可能 |
プラグイン | WordPress.com 機能のみ使える | 100以上の承認済みプラグイン | 承認済みプラグインに加え、レビュー後独自プラグイン追加可能 |
アナリティクス | WordPress.com デフォルトのみ | Google Analytics/Chartbeat 選択可能 | 自由なコード埋め込み可能 |
帯域幅 | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
ファイル保存領域 | 3GB無料、有料で追加可能 | 無制限 | 無制限 |
その他の特典 | – | 独自広告表示OK | Akismet エンタープライズ版、サイトのセキュリティ向上・最適化アドバイス、トレーニングオプションなど |
詳細情報 | 機能紹介ページ | 公式ブログ記事 | 公式サイト |
Q3. WordPress.com 上でのホスティングの安定性に対する数字が知りたいです。
WordPress.com では毎日ネットワーク全体で1億ビュー以上のトラフィックをさばいています。昨年のデータになりますが、サイトの uptime モニタリングサービス Pingdom のブログによると、「Automattic の WordPress ホスティングサービスは非常に安定している。調査期間11ヶ月間(2011年1月〜11月)の間のダウンタイムはかなり少なかった(期間中、ホームページで49分/99.99%、平均で99分/99.98%)。良い仕事をしています。」とのこと。大統領選のような大きなイベントがあり、トラフィックが集中しても、CNN ニュースブログのようなサイトも通常通りアクセスできます。
Q4. WordPress.com でホスティングするメリットは?
具体的には例えば以下のようなものが挙げられます。
- 帯域幅・ファイル保存領域の上限なし
- コア・プラグインのバージョンアップに伴うアップグレードが不要になる
- 米国内3ヶ所にあるデータセンターの1,500以上のサーバーを利用できる
- 静的ファイルは日本国内にも2ロケーションある Edgecast CDN を使用
- 毎時のバックアップ、セキュリティパッチの自動適用
- 世界一 WordPress のことを理解している開発者チームがレビューし、最適化したテーマやプラグインを利用できる
他のレンタルサーバーやクラウドソリューションなどと違っている大きな特徴は「WordPress のサイトホスティングを完全にお任せできる」ということだと思います。どれだけトラフィックが増えても、調整やチューニングなどの心配なくコンテンツの公開やサイトの改善に全力を注ぐことができるようになります。
Automattic のミッションは、もっと多くの人に WordPress を何の心配もなく使ってもらえるような環境を提供すること。ホスティングというのはそのひとつの(大きな)側面で、ある程度の規模を超えると悩みのタネになってしまうケースは現在も少なくないと言えます。もちろん WordPress に最適化した構成に詳しいシステム管理者さんが増えていくという点はとても重要なことではありますが(最近、情報が共有されその傾向は高まりつつあると思います)、世界中の WordPress ユーザーがそういった方を雇ったり、コンサルティングを受けたりする未来はまだ来ていないというのが現状です。
「何かを伝えたい」という人が優良なコンテンツを公開し、たくさんのトラフィックを集めたにもかかわらず、ホスティングについて誰に聞いていいか分からないためにサイトがうまく運営できないというのは残念なことです。WordPress.com のレンタルブログや「エンタープライズ」アップグレードが、そういった方のひとつのチョイスになるよう、今後とも日本語化や情報提供を進めていきたいと思います。さらなる質問などもお待ちしています。
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