WordFes Nagoya 2013 で WordPress 3.7 & 3.8 の開発動向について話しました

土曜日に名古屋で行われた WordFes Nagoya 2013 で「進化する WordPress 3.7 & 3.8 の開発動向」というセッションを担当しました。WordCamp サンフランシスコの基調講演、make.wordpress.org の P2 ブログや Trac で公開ディスカッション中の内容などをベースに、今後の計画をまとめたものです。

現時点での状況であるため実際のリリースとは多少異なる内容になる可能性もありますが、これから数ヶ月間の大まかな方向性として新バージョンに備えた提案・開発の参考になれば幸いです。


Slideshare: WordFes Nagoya 2013: 進化する WordPress 3.7 & 3.8 の開発動向

進化していく WordPress、そのスピードの理由

WordCamp SF 基調講演の質疑応答でマットは「Web は素早く変化していて、プロプライエタリなライバルたちは日々アップグレードしている。それに追いついていくことができなければいけない」と語っていました。数日ごと、数時間ごとにデプロイが行われる Web サービス。どんどん新バージョンが公開されるスマホアプリ。進化を続けるブラウザや OS、そして新しく出現するデバイス。開発言語、環境の改善。WordPress がこれからも多くの人に選ばれ続けるためには、そういった多くの変化に柔軟に対応できるツールとしての側面を強化していく必要があります。

2つのバージョンのロードマップがすでに考えられているのは、半年後にどんな機能が必要とされるのか?を予言しようとしているのはなく、必要に応じて機能を開発し、アップグレードをリリースできる体制を整えていこうとしているからというのが理由です。

WordPress 3.7: 開発手法の改善&セキュリティ・安定性向上

10月に公開を予定しているバージョン 3.7 は、約2ヶ月という比較的短い期間で「WordPress の開発体制が次のステップに進むために今必要なこと」を整理して実行する段階という位置づけです。投稿やプラグイン・テーマ開発の際に気づくような大きな変更はありませんが、今後ユーザーはもちろんコア開発チームが WordPress をさらに安定して開発・運用していくための改善が数多く行われる予定です。

make.wordpres.org
コア開発に関する公開ディスカッションは Make WordPress Core P2 ブログで行われている

1. 開発プロセスの改善

WordPress コアの開発には毎サイクル数百人が参加して意見を交換したりコードを書いたりしています。そのワークフローをさらに参加しやすいものにするために develop.svn.wordpress.org という新しいディレクトリが追加されることになりました。新ディレクトリには開発用ソースコード、ユニットテスト、開発ツール、設定ファイル、ビルドファイルなどがひとまとめに置かれ、最終的にリリースされるファイルのディレクトリ core.svn.wordpress.org とは別途管理されるようになります。

2. セキュリティと安定性

バージョン 3.7 で一番目に見えて大きく変わる点は「WordPerss コアの自動アップグレード」でしょう。WordPress の目指す大きなゴールは、Chrome ブラウザのようにアップグレードが頻繁かつユーザーの手を煩わせずに行えるようになること。プラグインやテーマといったカスタマイズとの干渉を最小限に抑えつつそのゴールに到達できるよう、今回のバージョンでは小さな一歩目としてマイナーアップグレード(3.5.1 から 3.5.2 など)のみ自動でアップグレードが実行される仕組みが導入される予定です。

その他、言語パックの独立(コアファイルや将来的にはプラグイン・テーマにおいて、言語ファイルのみを別々にダウンロードや更新できるようになる)やパスワード強化(強力なパスワードの生成補助・Cookie の強化)に向けての取り組み進められていくとのこと。

WordPress 3.8: プラグインとしての機能開発と新テーマ

12月のリリースをゴールにしている WordPress 3.8 は、コアチームが「新機能をプラグインとしてまず開発する」という手法で初めて取り組むバージョンとなります。これには、プロトタイピング・実験のしやすさ、テスト性の向上、個々の新機能の完成とリリースのタイミング調整など、スピード感ある機能の追加・改善に対する効果が期待されています。この手法が生まれた経緯については新ダッシュボード UI 案を MP6 プラグインとして公開しているという話にまとめてこのブログでも以前紹介していますのでそちらもぜひどうぞ。

WordPress 新ダッシュボード候補「MP6」
WordPress 新ダッシュボードデザインの候補「MP6」

これまでも WordPress では人気プラグインの機能がコアに含められるという流れは数多くありました。3.8 での試みが成功すれば、ユーザーのフィードバックをさらに素早く、細やかに取り入れていけるようになりそうです。

1. 追加検討中のプラグイン

おもしろいのは、3.8 に追加される機能は開発サイクルスタートの時点でプラグインとして完成していてテストやフィードバックも完了している必要があること。MP6 がこれにあてはまるのはほぼ確実と思って間違いなさそうですが、他にも以下のような機能が検討されています。

  • 管理画面での投稿・ページ・プラグイン名・テーマ名などの串刺し検索(Jetpack プラグインの Omnisearch モジュールとして公開済)
  • 「おすすめコンテンツ」テーマ機能(Jetpack プラグインの Featured Contents モジュールとして公開済)
  • ウィジェット追加 UI の変更
  • 管理画面ヘルプテキストの改善
  • 「コンテンツブロック」方式の投稿管理画面でのリッチメディア編集 UI
  • ログイン直後のダッシュボード UI 変更

2. 新テーマ Twenty Fourteen

2014年のテーマが、2013年末に公開!?というまるで車の新モデルのような WordPress としては前代未聞のスケジューリングですが、こちらもすでに完成しているテーマをベースにした開発なのでまったく不可能な日程とも言えなさそうです。新テーマのベースとして選ばれたのは WordPress.com プレミアムテーマとしてもともと作られた Further。Creative Market での販売もされていましたが、現在は一度販売を中止して Twenty Fourteen への変換のために準備が進められています(デモサイト)。

Twenty Fourteen Demo
Twenty Fourteen デモサイトはすでに公開中。

Further テーマの作者は Automattic テーマ・ラングラーでイギリス在住の入江隆さん。WordCamp Kobe 2011 や Osaka 2012 でも来日してくれていて、今月の WordCamp Tokyo にもお誘いしたかったのですが現在育児休暇中のため彼の話が日本で直接聞けるのはもうちょっと先になりそうです。

動画アーカイブ

ここに含めていない話ももっと聞きたいという方は WordFes Nagoya スタッフが公開してくれている Ustream 動画のアーカイブがあります。回線の都合により動画が5つに分かれて録画されていたようなのですが、順に見ることができます。 動画1動画2動画3動画4動画5

WordPress の開発動向を知るには

スライドの中にも多数リンクを含めていますが、各チームの情報共有はMake WordPress ブログで行われています。また、IRC チャンネルでのミーティングや Trac のチケットなどもすべて公開されていますので、気になる機能ひとつだけでもいいので追ってみると WordPress の開発の仕組みがよく分かると思います。

9月14日の WordCamp Tokyo では、デフォルトテーマや、3.8 サイクルの「おすすめコンテンツ」テーマ機能の開発に関わっているコンスタンティン・オーベンランドが「WordPress への貢献(Contributing to WordPress)」というセッションを行いますので、もっと詳しく知りたい方は足を運んでみてください。

WordPress は、オープンソースとして多数の人が10年間関わってきたプロジェクトです。ソースコードから学べることはもちろん多いですが、それ以外にもプロジェクトとしてどのように分散型の開発体制を整え、進化していっているかを知ることで、チームでの仕事の進め方の参考になるのではないでしょうか。


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