先週開催した東京お台場でのイベントの内容ご紹介です!
このイベントは “Five for the Future” という活動の一環なのですが、まずはそのファイブ・フォー・ザ・フューチャーって何?というところから入っていきたいと思います。
Five for the Future とは
“Five for the Future”、略して 5ftF は、「WordPress の未来のために、企業のリソースの5%をプロジェクトに還元 (give back) してコントリビュートをしよう」というイニシアチブです。2014年に WordCamp ヨーロッパで受けた質問をベースに共同創始者のマットがブログでアイデアを提唱したことから始まりました。
その後、2019年に正式に WordPress.org のページとして公開され、“pledge” と呼ばれる「コントリビュートすることを約束する」機能ができたものの、しばらくはコロナ禍などもあってそれ以上の動きはなく、昨年ごろから新たにテコ入れが始まったというのがこれまでの大まかな経過です。背景に興味がある方はこちらの WordPress Briefing ポッドキャストエピソードもどうぞ。
今回のイベントの意図
私自身も Automattic の「5%の『還元』コントリビュート」をフルタイムで行っている部署にいるのですが、これまでは主に翻訳やコミュニティイベントに関する活動を支援するチームにいました。7月から私がコントリビューター活動全般にフォーカスするチームに異動し、同僚が東京に来て合宿することになったため、このタイミングで日本の企業・個人コントリビューターの皆さんに Five for the Future について知ってもらい、日本ならではのニーズや声を聞いてみたいということでイベントを開催することとなりました。
イベントでお伝えしたかったこと
イベントの構成は、ハリ・シャンカーによる Five for the Future プログラムの概要説明、私からのプログラム参加企業などのコントリビュートの事例紹介、そしてパネリストを迎えてのディスカッションという3本立てでした。
特に WordPress コア開発においては、WordPress ではいわゆる「スポンサード貢献者 (コントリビューター)」と呼ばれる業務の一環としてのプロジェクト貢献を行っている人が比較的多くを占めています。
言語としては英語・スペイン語に続いて3番目にユーザーが多い日本語ですが、その日本語圏ではまだまだ企業が後押しするコントリビューターは数少ない印象があります。
しかし、「貢献する『べき』だからやる」では長期的な継続は無理というのは個人的にも感じているし、コントリビュートを通して何か他では得られない得るものがあってこそ無理なく楽しく続けることができます。私のセッションでは、以下の4つを挙げさせてもらいました。
- 人材の発掘・育成
- プロジェクト方向性の深い理解
- 信用の獲得
- ニーズの代弁
一部重なるところもあるのですが、アンケートやパネル、イベント前後での会話では特に、学び、機会、交流といった利点を挙げられている方が多かったです。
一方、障壁となっていることとして挙がったのは、企業のゴールとコントリビュート活動の関連付けの難しさ、費用対効果の測り方、戦略的な競争優位性を保つこととのバランス、ビジネスモデルとの整合性など。一部の場合を除いて、短期的かつ明示的に利点を実感するのは正直厳しいだろうと私も理解しています。
ただ、パネルの最後でも話が出てきましたが、これからますますデジタル化や AI の活用が進む中、社外の技術者やコミュニティメンバーとの関わりを通して最新の技術動向を把握する必要性は高まっていくはずです。WordPress を取り巻くビジネスエコシステムが健全であることはソフトウェアや OSS コミュニティにとっても大事なことで、WordPress がビジネスに役立つツールでなくなってしまえばユーザーも離れていくでしょう。
コモンズ (共有地) を健やかに保つことは、みんなのためでもあるけれど、自分のためでもあります。WordPress で突然日本語が使えなくなる、ということはないかもしれませんが、日本独自の商習慣や法規制を含む使われ方に WordPress が対応しているかを見守り続けることができるのは私たちしかいません。そういう意味で、「WordPress の未来のために、日本のユーザーとしてできる継続的なコントリビュートの形を探っていく」ことができればと思います。
イベントを通した気づき
今回のイベント後に同僚と振り返りをしたのですが、日本の皆さんのリアルな声が聞けて非常に参考になりました。特に気づいたのは「5%」という数字が重く感じられてしまっているのかも、ということでもあります。英語の名称はファイブとフューチャーの “F” がキャッチーなフレーズになっているんですが、この表現を日本語にしたとき、数字の意味合いが特に強調されるように感じました。ハリのプレゼンで「Five for the Future の “5%” は目指す先にあるもの。どんな貢献も価値ある貢献です」という内容があったのですが、それならばこの名称にこだわりすぎる必要はないのかもしれません。5% (Five) の方ではなくて、「未来 (Future)」の方に重点を置いていかないと、と感じています。
ある一定のコントリビュートを続けていくことを宣言する、というのはこれまた「重い」のかもしれませんが、単発的でランダムな貢献も始めやすさや柔軟性という意味で重要な一方、それだけの集まりでは実現できないこともあったりします。たとえ週1時間でも(そして、必要に応じて休んでももちろんOK)、継続的に行う意志があるということが Five for the Futrue への参加の意味であり、その積み重ねが未来を作っていくからこのプログラムが必要なんだということに改めて気づきました。
日本での Five for the Future の取り組みの今後
今回集まってくださった皆さんはコントリビュートの経験がかなりあったり、そうでなくてもある程度知識がある方がほとんどでした。より多くの方にとって、WordPress を利用することとコントリビュートすることが自然な形でつながる仕組みとして、Five for the Future というプロジェクトがあるといいのかもしれません。
たまたまタイミングが合って対面イベントができたのですが、定期的に皆さんが集まりやすい状況で同様に開催していくのは難しいところです。「小さく始めてゆっくり拡大する」というアドバイスに私も従って、継続的にコントリビューター向けの情報発信をしたり、参加のきっかけを作っていきたいと思っています。
日本での Five for the Future に興味のある方は、ぜひ引き続き注目していただければと思います。そして、この取り組みについて詳しく話してみたいという方は、Slack などで@nao までご連絡ください。
スライド・動画・ブログなど
戸田さんに、WordPress.tv に動画をアップロードしていただいています。
企業によるWordPress コントリビュート成功事例: スキルアップとグローバル参加の機会
三宅さんがブログを書いてくださっています。「Five for the Future (未来のための5%) とは」
Special Thanks
今回のイベントではたくさんの方にご協力をいただきました。
まずはパネル登壇者の相原さん、大串さん、小賀さん、田中さん。ざっくばらんに、経験に基づいたお話をしていただき、どうもありがとうございました。事前アンケートや当日の質問にお答えいただいた方々にもお礼を申し上げます。
さらに大串さんには、6月にオープンしたばかりのピカピカの会場、docomo R&D OPEN LAB ODAIBA の提供を取り計らっていただきました(同僚にも “Megane-san” の相性が定着しました!)。
動画配信・録画と UD トークの字幕にご協力くださった戸田さん、齋木さん、大曲果純さん。写真撮影でも戸田さん、安藤さんが素敵な記録をたくさん残してくださいました。この記事で使っているのもお二人の写真です。こちらのフォルダーに写真を共有してくださっていますので、参加者の方などぜひご覧ください。
また、たくさんの方が遠くから足を運んでくださったことに大変恐縮しつつ、とても嬉しく思います。その他にも社内外でイベントを共有していただいたり、皆さんどうもありがとうございました!
コメントを残す