今日は市ヶ谷で開かれた JTF 翻訳祭というカンファレンスに行ってきました。先日ブログにも書いた多言語ナイトの時に翻訳サービス企業の方から教えてもらって初めて知ったのですが、今回で25周年だそうです。こういった翻訳業界のイベントに参加したことはなかったので、新しい視点を得る機会になりました。
セッション
翻訳者の皆さんに知っていただきたい、多言語ソフトウェア開発側の苦労
海外向けソフトウェアの開発支援を行っている、NEC 森 素樹氏の講演。NEC の開発するアプリケーションとなると Web アプリケーションとは規模や開発プロセスが違う部分もありますが、発生する問題やベストプラクティスなどは共通の部分のほうが多く参考になりました。
ソフトのローカリゼーションには「違和感を感じない品質」が求められる。きちんとできたからといって褒めてもらえるわけではないが、できていないと反発や企業イメージの低下を招いてしまう。というのには納得。元の言語以外でも違和感なくソフトを使えて、多言語で存在することが当たり前になるような翻訳を提供できれば理想的です。
そのためには開発の最初から国際化を視野に入れることはもちろん、継続的な取り組みが不可欠、と言っておられました。これも当然ではありますが、心に留めておきたいことです。
講演中に紹介された役に立つリンク。
- T-Index(オンラインマーケットとしての可能性を国別に指標化したもの)
- EF 英語能力指数(国別の英語能力ランキング。日本は30位とのこと)
- 翻訳で失敗しないために〜翻訳発注の手引き(翻訳手配担当者のための PDF 資料)
次なる未来『トピック指向時代』の翻訳に挑む!
副題は「DITA・CMSの導入事例から明らかとなったトピック文書翻訳のベストプラクティス」で、DITA という XML 規格を使ったマニュアル文書などの作成についてのお話。
個人的には CMS との連携あたりの話に非常に興味があったのですが、主に DITA 導入においての失敗例や改善のためのプロセスがメインでした。関係ないんですが、登壇されたヒューマン・サイエンス社のドメイン名が science.co.jp ってすごいなと気になりましたw
DITA 自体の話に加え、翻訳しやすい日本語の書き方とデータの準備方法、翻訳プロジェクトを成功させるためのプロセス(ゴールの設定、プロトタイプづくり、運用ルール制定)などもあって興味深かったです。
(予備知識として DITA について調べていたら、WordPress 共同創始者のひとり Mike Little が2009年に作った “DITA to WordPress Import Tool” というものがあることを知りました。昨年の時点での更新版を公開している方もいます)
MT Live ~機械翻訳の担うべき役割~
こちらのパネルセッションは2部制の後半を聞いたのですが、3社の機械翻訳(MT)技術を使った結果を比較して、専門の翻訳者がそれをレビューするという内容でした。実際の結果出力もすべて配布されていました。
特許・IT 分野の定型的なマニュアル翻訳に関しては各社の特長や優越は特には感じられず、下訳には十分使えるレベルとの判定。人間が訳すると自然な文になるのは当然ですが、MT にはスピードや統一性という大きなメリットもあります。機械翻訳をいかにうまく使うかが、これからはプロにも差をつける鍵になりますよ!とまとめておられました。
一方、一般向けのテキストは(少なくとも今回の例文については)一番厳しい結果となっていました。慣用句・多義語・言葉遊びを多用した自然な原文であればあるほど文脈をつかむのが難しくなってしまうし、時事ネタはまだ登録されていないのでカバーできないというのが現状のようです。私も例文を Google Translate にかけてみましたが、やっぱり変な訳になってしまっていました?
そういえば学生時代に英語を勉強する目的でニュース雑誌や新聞を読んだりしていましたが、今思うとああいう文章は実は外国人には難しいですね。勉強向けには、文章や用語に規則性がある各種マニュアルを読むといいかもしれません!?
まとめ
私が主に知っている翻訳の世界である Web アプリの UI、コンテンツ翻訳などは翻訳産業全体から見るとまだまだ新しめの分野なんだなという実感はしましたが、どのセッションでもその新しいニーズや変化についての言及がけっこうあったのが印象的でした。WordPress のようなオープンソース CMS やその関連技術がこれからの翻訳を大きく変えていく可能性もありそうだし、会社での仕事とコミュニティを通してローカリゼーションをもっと楽に高品質にしていくためのことが何かできればいいなと思ったりしました。
そして技術の発達に伴って「ローカルユーザーに対して意図されたメッセージを伝える能力」そして「翻訳プロセスを最適化していくための工夫」が人間に対してますます必要とされていくんだろうと感じました。
わかりやすい文章や心に響く表現を磨き、翻訳を改善するためのアイディアを多方面から試してみることはまだまだコンピューターには苦手な分野です。そういう意味でも今回、普段とは違う角度から翻訳やローカリゼーションについて考えるきっかけを作れてよかったと思います。
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