Automattic の二次投資に見る長期的方向性

明後日に WordPress 10周年という記念日を控えて(東京のイベントは、明日です!)WordPress 共同創始者・Automattic 創始者のマット・マレンウェッグのブログ記事「Automattic After-Market」が公開されました。Automattic がタイガー・グローバルから5千万ドルの二次投資を受けたというニュースについてです。

Automattic logo & products

AllThingsDロイターTechCrunchVentureBeat などでもレポートが書かれていますが、一部 WordPress(ソフトウェア)と Automattic を混同して書かれている内容もあったりするので、詳細は前述のマットの記事や CEO トニー・シュナイダーの記事をおすすめします。

Automattic 社への投資に関する詳細説明記事ということで WordPress のユーザーには直接関係ない、と考える方もいるかもしれないのですが、彼の文には WordPress の将来にも関わるけっこう大事なメッセージが含まれていると私は思います。この記事を日本語で解説しつつ、Automattic の方向性や姿勢について自分の理解を共有してみたいと思います。私自身が Automattic 社員ということでバイアスが入ってしまうのは避けられないかもしれませんが、その辺も理解していただいた上でお読みいただければと思います。

今回の投資受付の意図

二次投資(secondary/after-market investment)というのは、初期の投資家など既存の株主から株を買い取って新しい投資家に売る形で、追加で株式を発行するのではないため売却利益が企業の運営資金に使われる一次投資とは異なります(セカンダリーマーケットとは|金融経済用語集)。運営資金が足らず投資を受けたのではない、ということです。

マットは今回のタイガー・グローバルからの投資受付の理由を、以下のように説明しています。

We’re building an independent company that’s going to be a growing part of the fabric of the web for many years to come, so allowing early investors to lock in some returns releases any short-term pressure there might be on the company for a liquidity event and allows us to focus fully on the long road ahead.

僕たちは、Web の全体構造内で成長しつつあるパーツとなる独立企業を作り上げている最中だ。だからこそ、初期段階の投資家に対してある程度の収益を確約することでリクイディティ・イベント(創業者利得機会)に対する短期的なプレッシャーの可能性を軽減し、今後の長い道のりに向かって完全に集中できるようになるのです。

日本語にするとどうしてもカタい訳になってしまうのですが、要するに「初期投資家からのプレッシャーを回避して、企業として独立した運営を続けることができるように」ということです。

Automattic と、マットの立ち位置

今回のニュースを最近の Yahoo による Tumblr 買収ニュースと比較する向きもありますが(CNN Money: Automattic nears Tumblr valuation)ある意味対照的だとも言えるのではないでしょうか。Tumblr のニュースに対するマットのコメントも合わせて読んでもらうと彼の立ち位置が理解できるかと思います。

News like this, whether from a friend or a competitor, is always bittersweet: I’m curious to see what the creative folks behind Tumblr do with their new resources, both personal and corporate, but I’m more interested to know what they would have done over the next 5-10 years as an independent company. I think we’re at the cusp of understanding the ultimate value of web publishing platforms, particularly ones that work cross-domain, and while Yahoo’s all-cash deal by some metrics, like revenue, is very generous, I think it’s a tenth of the value that will be created in these platforms over the coming years.

友人からであれライバルからであれ、このようなニュースにはいつもほろ苦い気分にさせられる。Tumblr を支えるクリエイティブな人たちが新しいリソース(個人的にも、企業的にも)を使ってどんなことをやってくれるのか楽しみではあるけど、もっと興味があるのは「もし Tumblr が独立起業のままだったら、5年や10年後にはどうなっていたんだろう?」ということだ。

僕たちは今、Web パブリッシングプラットフォームの根本的な価値を理解できる最先端の時代にいるのだと思う。様々な分野で活用できるものについては特にそうだ。一部の側面、例えば Tumblr の収益などを見た限りでは Yahoo の現金取引はとても気前が良く見えるかもしれないけど、こういったプラットフォームで今後創り出していける価値の10分の1でしかないんじゃないだろうか。

Tumblr の WordPress とは違ったおもしろさに感心したりしてきたいちユーザーとしては「ほろ苦い気分」には私自身も共感するところがあります(自分が長年の Flickr 愛用ユーザーだからというのもなきにしもあらず?)。もちろんこれからも Tumblr はリソースを得てパワーアップしていく部分もあると思うので、Yahoo がすべてダメにするんだ!とヒステリックで根拠のない将来を予測するつもりはありませんが。
ただ、新しいアイディアが生まれて、サービスとして成長して買収される、というスタートアップストーリーには夢があるけど、マットは WordPress をそれ以上のものにするために Automattic を運営しているのだということがこの一文から読み取れるのではないでしょうか。

もちろんマットがどんな決意をブログで書こうが、もし実績が伴わなければポジショントークなどと言われてしまっても仕方ないこと。Automattic がこれから何年もかけて企業として発展しながら、他の WordPress 関連企業とともにオープンソースソフトウェアとコミュニティの成長を助けていると認められるような実績をさらに積み重ねてこそ説得力が増すのは事実です。

大きな金額や推測、スタートアップに関するバズワードに惑わされることなく、私も「今後の長い道のりに向かって」集中していければと思います。

明日や明後日の各地のイベント(WordPress イベントカレンダーに詳細あり)が2003年からの10年間を振り返る良いきっかけになりそうです。GMO 東京オフィスでのイベント参加予定の方は、ぜひお会いしましょう!


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