土曜日、映画「ちいさな哲学者たち」の上映会に行ってきました。フランスのある幼稚園で子供たちが受けた哲学の授業の2年間を追ったドキュメンタリーです。
哲学の授業といっても、哲学者の歴史や言葉を教えるわけではなく、子供たちは先生が投げかける「自由とは?」「愛とは?」「リーダーとは?」「死とは?」などなどの質問に自分なりに答えていくという対話形式のものです。哲学の授業プログラムが行われるのは、貧しい家庭が多く、成績や素行が悪い生徒が多くなりがちな「ZEP(Zones D’Education Prioritaire、教育優先地区)」と呼ばれる地域にある幼稚園。子供たちの返答にも移民や片親などの複雑な家庭環境を説明する場面が何度も出てきます。
予告編はこちら。
私にとって特に印象に残ったのは子供たちが「自分の頭で考えてそれを口に出す」というあたりまえのことをだんだんできるようになっていっている過程でした。考えて話す、ってあたりまえすぎて意識しないことかもしれませんが、「頭の中にあっても、ことばに出さないと伝わらないよ」みたいなことを先生が言っているのを聞いて、大人になった私たちでもそれを忘れて誤解を招いてしまうことってよくあるよなーと思ったのです。
子供たちは語彙や経験の少なさからうまく表現できないこともあって(その、なんとなく腑に落ちていない感じが見ていても分かったりして)こちらももどかしさを感じたりするんですが、適当なことばでごまかしたりはしないで自分なりに思いを伝えようとしていました。毎回みんなが納得してひとつの意見に落ち着くことはなくても、対話をすることで少しずつ分かり合うプロセスを経ている感じ。
愛や生死、社会のできごとなどに関する哲学的な話の内容ももちろん面白いんですが、哲学に限らず、話せば分かる、完全ではなくても伝えられることはある、という経験を重ねられる対話の場をこどもたちに用意するということが重要なのだと思います。ZEP 地域で家庭にあまり余裕がない環境に育っているこどもたちの親にいきなりそれを求めることは難しいですが、このプログラムを通じて子供が話題を提供することで親も変わってきている場面もあったことに可能性を感じました。
参加型トークセッション「こどもと哲学について」
映画を観た後は茨城大学非常勤講師の土屋陽介先生が映画や子供への哲学教育の現状について解説をしてくださいました。
- オーストラリアでは200校くらいの学校で対話形式の哲学の授業を取り入れている
- 「ことばを信頼」し、理由を必ず述べるのがルール
- この方式では「探求の共同体(community of inquiry)」を作り出すのが大事。議論や説得をするのではなくて、聞いて理解して考えを深める
- 他人の視点で考える力(Caring)やコンテキストを鑑みる力(Contextual)の訓練になる
など、映画ではほとんど説明されていなかったこのプログラムの理念や背景を詳しく知ることができてとてもよかったです。日本でこういった教育手法が大々的に取り入れられるのは現在は難しいようですが、土屋先生は立教小学校や玉川学園小などで試験的に授業をやったりもしているそうです。
さらに最後に参加者が輪になってディスカッションを行いました。フランスに住んだことがある人や教育に関わっている人、子供を持つ人、持たない人、いろんな立場から映画やこどもの哲学教育についての意見を交換するという場はおもしろかったです。映画を見に行って友達と話し合うことはあったりするけど、その分野に詳しい人や自分とは全然違う立場にある人たちとそうやって話す機会というのはなかなかない。みんなで話すのはオンラインでたくさんレビューを読むのともまた違った良さがありました。
初めての自主上映会体験
この自主上映会ですが、会場となったコクヨエコライブオフィスで昨年期間限定のコワーキングイベントをしていたときに、堀江さんのかけ声で始まった企画です。今回はもちろんコクヨさんの会場提供というご協力があってこその実現ではありましたが、土屋先生の登場や託児オプションといったことも実現され、映画館で見るよりも良い環境だったと思います。小さなこどものいる友だちも誘って行ったのですが、エコライブオフィスの開放感のせいか、来ていた子供たちものびのび遊んでてなんか楽しそうだね〜なんて話していました。
2/2には三軒茶屋の世田谷ボランティアセンターでも上映会が行われるそうなので、気になる方はイベントページで詳細をどうぞ。
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