クレイグ・モド氏の『超小型』出版と電子書籍/電子出版の未来イベントに行ってきました

昨日アップルストア銀座で開かれたイベント、「『超小型』出版と電子書籍/電子出版の未来」に行ってきました。

Craig Mod @ Apple Store Ginza
プロダクトとしての日本の書籍や本屋さんが大好き!と話していました。

出版シンクタンクPRE/POSTの創業者クレイグ・モドが、この四年間で関わった電子出版と電子書籍に関連する作品について語る。トピックは、Flipboardでのプロダクト・デザインや、モド氏が発表した電子書籍とその出版についてのエッセイを巡る議論など。

彼が提唱する「超小型」出版の概念や、そのシンプルなツールとプラットフォームが2013年、そしてその先の電子出版界にどのような影響を与えるかが主なテーマ。

電子出版の未来というトピックは簡単に語りつくすことはできない大きな話題ではありますが、クレイグは今まで彼自身がやってきた試みや、今後破壊的技術(disruptive technology)となりうる動きを通して今後の出版の変化について語ってくれてとても面白かったです。

重なる内容的は、彼のサイト内の「Subcompact Publishing」という記事でも詳しく書いてありますが、以下に簡単にセミナーのメモをまとめてみます。

セミナー内容メモ

電子書籍・電子出版にこだわっているわけではなくて紙の書籍も大好き。コンテンツがデジタルとフィジカルの間をいったりきたりできるような「フリップフロップ」的スイッチがあれば理想的。

デジタルな作品を作るのは終わりがない作業に感じられるときがある。書籍を出版し実体化することで、作品に枠をつけることができる。

「本」は最高に精密で確実な装置。誰にでも使い方が分かる。

Craig Mod @ Apple Store Ginza
Flipboard for iPhone の最初のコミットメッセージ。

Flipboard の iPhone 版アプリに関わった時、デザインカンプ・git コミットメッセージ・手描きスケッチ・ローンチパーティの写真を使ってハードカバー本を作った(たった二冊だけ!印刷したとのこと)。単なるデータだったものをまとめて書籍という枠を与えることで、そこにあった感情や思い出をキャプチャできる。プロジェクトに関わった濃い経験を表現する物語になる。

デバイスやマーケットプレイスの選択肢、出版側の手間、読み手の学習曲線など電子出版が複雑化していっているのは良くない傾向。バイクメーカーのホンダが今までの先入観を捨てて N360(Nコロ)を作ることで軽自動車カテゴリ全体の性能向上に貢献した例のようなアプローチが必要。

Craig Mod @ Apple Store Ginza
アメリカでは Nコロの流れを汲む Civic に乗り倒した、とのこと。いい車です。

少ない記事数で小さなファイルサイズ、流動的な発行スケジュール…などといった彼の考える理想的な「超小型」出版の例として、Marco Arment の The Magazine がある。デジタルの良さを活かし複雑さを排除した UI/UX で、iOS 向けに Newsstand を使って配信している。

tapestry というサービスを使った、菅原敏さんによる詩(”tap essay”)の朗読。改行・余白・タップのリズム・フォントの大小による言葉の強弱など、書籍とは違う方法で詩を表現する事ができるツール。詩集や個々の詩をシンプルに作れて読める仕組み。

Tokyo Otaku Mode の話。Facebook ページで大量にファンを集め、数百万のファンを獲得してから公式サイトを構築する、という今までのブランドとは逆なソーシャル系サービスの使い方。

出版とパブリッシング

日本語だと「出版」と「パブリッシング」という言葉のニュアンスはイコールではないかと思います。このイベントでも思ったのですが、例えばブログという「パブリッシング」ツール(コンテンツを世に公開するツール)はあって、それは現在かなり開かれたものになっています。とりあえず公開することはハードルがかなり下がっている。Tokyo Otaku Mode のように、ブログやサイトさえ持たずに Facebook でパブリッシングを始めることだってできる。Twitter でフォロワーを爆発的に増やして、何万人、何百万人にメッセージを伝えることもできる。

一方、日本語で言う「出版」のツール(作品をまとめて枠をつけて売るための道具やプロセス)はまだ技術や知識など色んな壁を乗り越えないとアクセスできないところにあるのが現状です。たとえば The Magazine は、Marco がプログラマだったから可能だったわけです。もちろん、そういった形のある作品を作ること自体が誰にでも必要なのかというと少なくとも現在は違うと思うし、だからこそシンプルになり尽くすことがまだそこまで求められていないというのもあるのでしょう。

でも今の流れからすると、もっと多くの人が「パブリッシャー」になり、その結果として「出版者」になる未来もまだ先かもしれませんが起こるはず。その時の選択肢となるツールはまだ確立していなくて、次の段階へ進んでいくリードをとっていくのは出版の本質とデジタルの利点を両方理解して新しいものを作る人たちなんだろう、と改めて感じました。

クレイグ・モド氏の文章は、日本語になっているものもあります。「電子書籍に取り組むということ」は2010年のものですが、今まさに読むと面白いのでは。以下は、『”iPad時代の書籍”を考える』より。

93年のCD-ROMじゃあるまいし、 ビデオミックスとか、 新しい「インターフェースのパラダイム」とか って言うのやめようぜ。

「文章」について語ろう。 電子書籍を語ろう。

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